銀座闊歩

先日、銀座の煙草屋 菊水で、パイプを購入した。

Talamonaというイタリアのメーカーのパイプで、初心者の私は店員さんと相談しながら決めた。「パイプを初めて購入されるお客様には、吸い方の方法など、私たちがひと通りご説明しながら、当店で一服していただくのですが。時節柄、それが出来なくなってしまいまして……」と応対してくれた店員さんが残念そうに話した。「頂戴したパンフレットを参考にして、家で練習します。また、よろしくお願いします」私は一礼すると、店舗向かいの中央通りに出た。今日は日曜日。歩行者天国である。人々が闊歩している。緊急事態宣言を解除された、彼/彼女達は自由を謳歌している。それから、私はBar 保志でカクテルを3杯ひっかけたあと、パイプの入った手さげ袋を携えて、小岩の下宿に急いだ。

書斎で読書灯を点けると、パイプに恐る恐る煙草を詰めていく。そして、また、恐る恐るマッチで火を点ける。着火する時に適宜吸い込むことで、ボウルの中の煙草に火を移していく。火種が消えないように何度もマッチを擦るが、すぐに鎮火してしまい、喫煙できない……。そういえば、菊水の店員さんがパイプ煙草に火を点けるのに、BICのライターをお勧めしていた。昔、職場の先輩から頂戴したものを試してみる。点火後、ライターを水平にして、ボウル内の煙草にゆっくり火を移していく。15秒くらい経ったろうか。火種は完全にできたので、パイプをゆっくり吸い込む。そして、吐く。ボウルの中の煙草をタンパーで適宜整える。この繰り返しである。

パイプを吸ってみて、分かったことだが、パイプはシガレットに比べて、副流煙は断然少ない。だから、部屋で吸っても、案外ケムくならないのだ。パイプの煙は、穏やかに、控えめに立ち昇る。シガレットのように巻紙や燃化剤を使わないからだろう。パイプの煙草は一部は燃焼させ、一部は加湿/加熱させて吸うので、その仕組みはアイコスなどの加熱式タバコのヒントになったのではないかと勝手に想像してみる。

一度、パイプ煙草に火を点けると、20~30分くらい吸い続けることができるので、相当満足感を得られる。パイプの中にフィルターを仕込んでいないので、正直、結構きつい。身体に負担がかかる(私の吸い方が下手な為かもしれないが)。煙草の喫味で味覚も麻痺するので、チェーンスモークは無理だ。喫煙すること自体が時間と手間のかかる「儀式」になるので、1日1回吸うのも難しい。2、3日に1回くらいが適当だろうか。ニコチン依存症は遠い。

パイプを吸ったあと、試しにシガレットを吸ってみる。銘柄はLUCKY STRIKE 14mg。パサパサして、埃っぽく感じる(湿度が低いのだろう)。あまり、美味くない。私は専らシガレットを吸っていた頃も、2、3日に3本くらいの頻度であったが、それでも、シガレットの手軽さに敵わないので、惰性で吸っていたのだろう。パイプに比べて、激しく立ち昇る副流煙の量を、重たい、ケムたいと感じるか、それとも、力強く、頼もしい、なかなかオツなものだと感じるか。私はどちらかと言うと後者である(ゆえに太巻きのHOPEは好きである)。たまに吸いたくなる。次は手巻煙草を始めてみようか。

私が煙草の味を覚えたのは32歳の頃である。それまでは嫌煙家だった。以前の私を知る、友人、知人は驚くので、便宜的にストレスのせいにしているが、人間は、実際、尊敬する人物に近づくのである。

中村真一郎開高健に敬意を込めて。