数奇人の微笑

私は1日にだいたい3本~5本の煙草を吸う。「それなら吸わない方がいいじゃないか」と、煙草を覚えた頃に同僚に言われたことがあるが、私は精神衛生上、何か効果があると期待して煙草を吸うのである。「煙草は百害あって一利なし」と嫌煙家は喧伝するが、これは嘘だと思う。ニコチンの神経細胞の賦活作用は科学的に証明されている。私たちは眠気を吹き飛ばす時、仕事で気合を入れる時、やり場のない怒りを鎮める時、明日の不安を消したい時、仕事休みの時、友達と話す時、手持無沙汰な時、ボンヤリしたい時、煙草を吸うのである。

普段、LUCKY STRIKE expert cut 14mgを愛用しているのだが、先日、気まぐれにMEVIUS 10mgを試してみた。この銘柄を吸うのは約1年ぶり。昔は「可もなく、不可もない。これが国民的煙草というものか」と敬遠していたが、一昨日の早朝、出勤前に公園で箱を開けて1本取ると、火を点ける前からそのかぐわしさに陶然とした。一服すると、喫味は柔らかく、吸いやすい。かつて、MILD SEVENと名づけられたのは相当の理由があるのだ。私は生まれつき飽き性なのか、定番はあるが(ウイスキーの場合、サントリーの角、OLDなど)、何種類もの銘柄を五感の上で転がしてみるのが好きである。古典を尊重するが、同時に際物、数奇物、下手物も大事にする。私のこの性向は、酒、煙草、文学、人間、森羅万象に及んでいる。それがまた、私の性格を寛容にしたと思いたい。