冴羽獠、走る!

鞄の中にいつも『CITY HUNTER』を忍ばせて、折に触れて読んでいる。

私の持っているエディション集英社の文庫版(A6判)ではなくて、ゼノンコミックス(作者の北条司が経営する出版社)のB6判。カバーと扉に描きおろしの画稿が使われていて、ファンはもちろん、私のような愛書家も楽しませてくれる。2015年の発行で、すでに絶版になっているが、最近は電子書籍でも販売しているので、ぜひ手に取って見てほしい。

シティーハンター 1巻

シティーハンター 1巻

マンガもいいが、アニメもいい。特に第1期のOPは、『CITY HUNTER』の世界を見事に表現している。

摩天楼をエレベーターで昇る、冴羽獠の表情が優しい。というか、なんかエッチだ(色気があると言った方がいいのだろう)。「CITY HUNTER」の文字を背景に走る冴羽獠も、大都会で必死に生きている感じがする。マンガの初版は1986年。私の生まれた年と同じだ。私が物心ついた頃には、金融危機、大震災、疫病など、完全にロストジェネレーションとして育ったが、幼少期はバブル景気のまっただなかで育ったのだ。私の魂の故郷は、心のふるさとは、じつはこの辺にあるのではないか、とこのごろ思うようになった。私は根が田舎者なので、都会人になろうと努力してきたが、素朴に街を讃美できない気持も心のどこかにある。しかし、冴羽獠と槇村かおりの次のような会話を聞いていると嬉しくなる。二人がコンビ「CITY HUNTER」を結成する場面だ。

「ユニオンの店からまきあげてきた金だ! これを持っておまえは逃げなきゃならん!」

「金……? 逃げる!?」

「そうだ。おれらはユニオン・テオーペを敵にまわしたのさ! ユニオンはおれ……そして香ちゃん、おたくもるといった! 危険分子はすべて消す! それがやつらのやり方だ! ぐずぐずするな! 早く用意しろ!」

「あ……あんた、どうすんの!?」

「おれはこの街を離れる気はないんでね! どうした。泣いているヒマはないんだぜ!」

「ちがうわ。わたしもこの街をでていく気はないの! この街でやらなきゃ……ならないことが…できたから!」

「……………………!?」

「あんたには新しい相棒が必要でしょ!」

シティーハンター』第7話「死のブラックリスト

ある日、冴羽獠は依頼された仕事のために、大学に講師として潜入するが、放課後、夜の街にくりだすシーンもいい。

「若いギャルもいいけど大学あそこはカタこるもんなぁ。やっぱここがおれには一番あうなぁ」

シティーハンター』第31話「ネバーエスケープ」

私は酒場バーに通うことで、「街場」という言葉を知った。バーテンダーがホテルの勤めを辞めて、自分の店を持つことを「街場に下りる」と言う。逞しい言葉である。街場のバーでは、資金と品位さえあれば、誰でも酒が飲めるのだ。